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衛星データ×農業の活用事例 — 精密農業・収量予測・災害監視を解説【2026年版】

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農業は気候・土壌・水に左右される産業であり、広大な圃場の状態を効率的に把握する手段として衛星データの活用が急速に進んでいる。NDVI(植生指数)による生育モニタリング、SAR(合成開口レーダー)による土壌水分推定、気象衛星データを用いた収量予測——衛星データは農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の基盤技術だ。本記事では衛星データの農業活用を、基本原理から具体的な事例、導入ステップまで体系的に解説する。

この記事は「衛星データ活用ガイド」の詳細記事です。


農業に活用される衛星データの種類

農業分野で主に活用される衛星データは以下の3種類だ。

データ種類代表的な衛星空間分解能主な用途天候依存
光学画像Sentinel-2, Landsat-910〜30mNDVI解析・作付面積推定雲で観測不可
SAR画像Sentinel-1, ALOS-25〜25m土壌水分・浸水域把握曇天・夜間も可
気象衛星ひまわり9号, GOES-180.5〜2km日射量・降水量推定-

光学衛星は可視光〜近赤外光を利用して植物の反射率を計測する。SAR衛星はマイクロ波を送受信するため、雲を透過して観測できる点が農業現場では重要だ。日本のように梅雨や曇天が多い地域では、光学衛星だけでは観測ギャップが生じるため、SARとの併用が実用的だ。


NDVIによる生育モニタリング

NDVIとは

NDVI(Normalized Difference Vegetation Index: 正規化差植生指数)は、衛星データの農業活用で最も基本的な指標だ。植物は光合成のために可視光の赤色(Red)を吸収し、近赤外光(NIR)を強く反射する性質がある。この差を利用して植物の活性度を数値化したものがNDVIだ。

計算式: NDVI = (NIR - Red) / (NIR + Red)

値は-1から+1の範囲をとり、健全な植物は0.6〜0.9程度の高い値を示す。裸地は0.1前後、水面はマイナスの値になる。

生育モニタリングの実際

NDVIを時系列で追跡すると、作物の生育状態をリアルタイムに把握できる。具体的には以下のような情報が得られる。

  • 生育ムラの検出: 圃場内でNDVIが低い区域は、肥料不足・水不足・病害虫のいずれかが疑われる
  • 生育ステージの判別: 出穂期・登熟期などのフェノロジー(生物季節)を衛星データから推定
  • 前年比較: 過去のNDVIと比較することで、当年の生育が例年並みか遅れているかを定量的に評価

ESA(欧州宇宙機関)のSentinel-2衛星は5日ごとに全球を観測し、空間分解能10mのデータを無料で提供している。日本の平均的な圃場(約30a=3,000平方m)でも1ピクセル以上のデータが得られるため、個別の圃場レベルでの分析が可能だ。


精密農業(プレシジョン・アグリカルチャー)

可変施肥マップの作成

精密農業の核となる技術が「可変施肥」(Variable Rate Application: VRA)だ。圃場全体に均一に肥料を散布するのではなく、NDVIマップから生育が悪い区域には多く、良い区域には少なく施肥するアプローチだ。

可変施肥の導入効果は、肥料コストの10〜20%削減、収量の5〜15%向上が典型的な数値だ。環境面でも過剰施肥による硝酸態窒素の地下水汚染を軽減できる。

実際のワークフローは以下の流れになる。

  1. Sentinel-2のNDVI画像を取得(5日ごとに更新)
  2. 圃場単位でNDVIの空間分布を解析
  3. NDVIの低い区域を特定し、施肥量の増減マップを作成
  4. GPS搭載の施肥機に可変施肥マップをロードして散布

ドローンとの連携

衛星データは広域の概況把握に優れるが、空間分解能(Sentinel-2で10m)には限界がある。ドローン(マルチスペクトルカメラ搭載)は数cm〜数十cmの分解能で撮影でき、病害虫の初期検出や個体レベルの生育診断に適している。

実務では衛星データで問題のある区域を特定し、ドローンでその区域を詳細に調査する「広域スクリーニング→局所精査」の2段階アプローチが効率的だ。


収量予測と農業保険

衛星データによる収量予測

衛星データを用いた収量予測は、食料安全保障と農業政策の重要なツールだ。手法は大きく2つに分かれる。

統計モデル: 過去数年〜数十年のNDVI時系列と実際の収量データの相関を分析し、回帰モデルを構築する。新しいシーズンのNDVIを入力すると収量を予測できる。

作物成長モデル: DSSAT、AquaCropなどの作物成長シミュレーションモデルに、衛星由来の気象データ・土壌水分データを入力して収量を予測する。物理プロセスに基づくため、未経験の気候条件にも対応しやすい。

国連食糧農業機関(FAO)のGIEWS(Global Information and Early Warning System)は衛星データに基づく作物モニタリングを全球規模で実施し、食料危機の早期警戒に活用している。

農業保険(インデックス保険)

衛星データは農業保険の革新にも貢献している。従来の農業保険は現地調査による損害査定が必要で、コストと時間がかかっていた。衛星ベースのインデックス保険では、NDVIや降水量などの客観的指標が閾値を下回った場合に自動的に保険金が支払われる。

この方式は現地調査が不要なため、小規模農家が多いアフリカや南アジアでの普及が進んでいる。世界銀行やCGIAR(国際農業研究協議グループ)の支援で、ケニア・エチオピア・インドなどで衛星ベースの農業保険プログラムが運用されている。


SAR衛星による土壌水分と水管理

土壌水分推定

SAR(合成開口レーダー)衛星は、地表に向けてマイクロ波を照射し、その反射を計測する。土壌の含水率が高いとマイクロ波の反射(後方散乱)が強くなる性質を利用して、土壌水分を推定できる。

ESAのSentinel-1衛星(Cバンド SAR)は6日ごとに観測し、空間分解能20mのデータを無料で提供している。農業用途では、灌漑のタイミング最適化(水不足の区域を特定して優先的に灌漑)や、排水不良区域の特定に活用されている。

水稲作付面積の推定

日本の水稲栽培においてもSARデータは有用だ。田植え直後の水田はSAR画像上で特徴的な反射パターン(鏡面反射)を示すため、作付面積の推定に利用できる。JAXAのALOS-2(だいち2号)やSentinel-1のデータを用いた水稲作付面積推定の精度は90%以上に達しており、農林水産省の統計調査を補完するツールとして研究が進んでいる。


災害監視と被害評価

洪水被害の迅速評価

豪雨や台風による農地の浸水被害は、SARデータを用いて迅速に把握できる。浸水域はSAR画像上で暗く(マイクロ波が水面で鏡面反射するため)表示されるため、被害範囲の特定が容易だ。

2019年の台風19号(令和元年東日本台風)では、Sentinel-1とALOS-2のSARデータを用いた浸水域マップが被災後24時間以内に作成され、農地被害の初期評価に活用された。

干ばつモニタリング

干ばつの広域モニタリングにはNDVIの平年偏差(Vegetation Condition Index: VCI)が広く用いられる。VCIは過去のNDVI最大値・最小値に対する当年の値の位置を0〜100%で表す。VCIが40%以下の場合は干ばつの可能性が高いと判定される。


日本での衛星データ×農業の取り組み

WAGRI(農業データ連携基盤)

日本では農林水産省主導でWAGRI(農業データ連携基盤)が2019年から運用されている。WAGRIは衛星データ・気象データ・土壌データ・農機の稼働データを統合するプラットフォームで、民間の農業ICTサービスがWAGRI経由でデータを取得・活用できる。

導入ステップ

衛星データの農業活用を始めるための基本ステップは以下の通りだ。

  1. 目的の明確化: 生育モニタリング、可変施肥、収量予測、災害監視のどれが最も必要か
  2. 無料データから開始: Sentinel-2(光学)やSentinel-1(SAR)はEU Copernicusプログラムで無料公開されている
  3. 解析ツールの選定: Google Earth Engine(GEE)はプログラミング知識があれば無料で衛星データの解析が可能
  4. 民間サービスの検討: FarmSat、SAgri、オプティム(日本)、Planet Labs(米国)などが農業向け衛星データ解析サービスを提供

よくある質問(FAQ)

Q1: 衛星データの農業活用にどのくらいのコストがかかるか?

データ自体は無料のものが多い。ESAのSentinel-2/1、NASAのLandsat-9は誰でも無料でダウンロードできる。解析に関しても、Google Earth Engineは研究・非営利目的で無料だ。民間の農業向けSaaS(FarmSatなど)を利用する場合は月額数千円〜数万円が目安になる。高分解能商用衛星(Planet Labs SuperDoveの3m分解能など)のデータを直接購入する場合は1シーン数万円〜だが、多くの農業用途ではSentinel-2の10m分解能で十分対応できる。

Q2: 日本の小規模圃場でも衛星データは有効か?

Sentinel-2の空間分解能は10mで、1ピクセルが100平方mに相当する。日本の平均的な水田(約30a=3,000平方m)であれば30ピクセル以上のデータが得られるため、圃場内の生育ムラの検出も可能だ。ただし、10a以下の非常に小さな圃場では衛星データだけでは精度が不足する場合があり、ドローンとの併用が推奨される。

Q3: 曇りの日が多い日本でも衛星データは使えるか?

光学衛星(Sentinel-2など)は雲の影響を受けるため、梅雨時期などは連続的な観測が困難になる。この問題に対する解決策が3つある。(1) SARデータ(Sentinel-1)の併用——マイクロ波は雲を透過する。(2) 多時期コンポジット——数週間の観測データから雲のないピクセルを合成する。(3) 商用衛星コンステレーション(Planet Labsの約200機体制)の活用——日次観測により晴れ間を捉える確率を高める。


まとめ

衛星データは農業のデジタルトランスフォーメーションを支える基盤技術だ。NDVIによる生育モニタリング、可変施肥による精密農業、SARデータによる土壌水分推定と災害監視、収量予測に基づく農業保険——活用領域は広い。Sentinel-2/1の無料データとGoogle Earth Engineの組み合わせにより、導入コストは大幅に下がっている。日本ではWAGRIを通じたデータ連携も進んでおり、農業×衛星データの実装フェーズに入っている。

関連記事: 衛星データ活用ガイドでは、農業以外の衛星データ活用分野(防災・都市計画・海洋監視など)も含めて解説している。


参考としたサイト

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