(更新: ) 読了 約16分

アルテミス計画をわかりやすく解説 — Artemis I〜IVの全体像・SLS・Orion・月面基地計画まで

#NASA#アルテミス計画#月探査#SLS#Orion#わかりやすく

アルテミス計画とは — 人類が再び月を目指す理由

アルテミス計画(Artemis Program)は、NASAが主導する有人月面探査プログラムだ。1972年のアポロ17号以来、半世紀以上ぶりに人類を月面に送り込むことを目指している。

アポロ計画との最大の違いは「行って帰るだけ」ではない点にある。アルテミス計画は月面に持続的な拠点を築き、将来の火星有人探査への足がかりとすることを目的としている。

計画の名前「アルテミス」は、ギリシャ神話の月の女神に由来する。アポロ(太陽の神)の双子の姉でもあり、アポロ計画の後継にふさわしい名前として選ばれた。


アルテミス計画の4つのミッション

Artemis I(2022年11月〜12月・完了)

Artemis Iは無人テストミッションだった。SLSロケットとOrion宇宙船の初飛行として、25日間の月周回飛行を成功させた。

主な成果は以下のとおり。

  • SLSロケットの初打ち上げに成功
  • Orion宇宙船が月を周回し、地球から約43万kmの距離に到達
  • 大気圏再突入時の耐熱シールドの性能を実証
  • 25.5日間のミッションを完遂

ただし、再突入時に耐熱シールドの一部が想定外の摩耗を起こすという課題も発見された。この問題はArtemis II以降の設計改良につながっている。

Artemis II(2026年4月・有人月周回)

Artemis IIは有人での月周回飛行ミッションだ。4名のクルーがOrion宇宙船に搭乗し、月を周回して地球に帰還する。月面着陸は行わない。

搭乗クルーは以下の4名。

  • リード・ワイズマン(船長)
  • ビクター・グローバー(パイロット)
  • クリスティーナ・コック(ミッションスペシャリスト)
  • ジェレミー・ハンセン(CSA・ミッションスペシャリスト)

カナダ宇宙庁(CSA)のハンセン飛行士が参加しており、アルテミス計画が国際協力プログラムであることを象徴している。

最新状況(2026年3月時点)

2026年3月20日、SLSロケットとOrion宇宙船がケネディ宇宙センターの39B発射台に到着した。組立棟(VAB)から発射台までの移動には約11時間を要した。当初は3月中の打ち上げを目指していたが、2月21日の燃料充填テスト後にロケット上段のヘリウム流路の問題が発見され、修理のためスケジュールが見直された。

現在の打ち上げ目標は日本時間2026年4月2日朝だ。NASA公式では2026年4月1日(米国東部時間)以降の打ち上げ機会として案内されており、クルーは3月18日から打ち上げ前の検疫(隔離)期間に入っている。

ミッションタイムライン

Artemis IIは約10日間のミッションだ。以下のフェーズで構成される。

  1. 打ち上げ・地球周回軌道投入: SLSがOrionを高度約160kmの地球周回軌道に投入。システムチェックを実施
  2. 月遷移軌道投入(TLI): 上段ICPSが噴射し、時速約40,000kmまで加速してOrionを月へ向かわせる
  3. 月への巡航: 約4日間かけて月へ接近。クルーは生命維持システムのテスト、緊急時手順の訓練、放射線被曝量のモニタリングを実施
  4. 月フライバイ: 月の裏側を約10,300kmの距離で通過。人類がこれまで到達した最遠距離となる
  5. 地球帰還・再突入: マッハ32(時速約40,000km)という極めて高速な大気圏再突入を実施。これは有人宇宙船としては過去最高速度の再突入となる
  6. 着水: パラシュート展開後、カリフォルニア沖の太平洋に着水。回収チームがクルーを収容

このミッションはハイブリッド自由帰還軌道を採用しており、万一推進システムに問題が発生しても、月の重力を利用して自然に地球へ帰還できる安全設計になっている。

アルテミス計画の詳しいミッション内容はArtemis II完全ガイドでも解説している。

Artemis III(2027年・地球軌道テスト → Artemis IV以降で月面着陸)

Artemis IIIは当初人類が約55年ぶりに月面に立つ歴史的ミッションになるはずだった。しかし2026年2月、NASAはアルテミス計画の大幅な再編(「コース・コレクション」)を発表し、ミッション内容が大きく変わっている。

変更後のArtemis III(2027年中頃) は、月面着陸ではなく地球低軌道でのランデブー・ドッキングテストとなる。SpaceXのStarship HLSやBlue OriginのBlue Moonなど、商業開発の月面着陸船との軌道上ドッキング技術を実証する。また、新型宇宙服「AxEMU」(Axiom Extravehicular Mobility Unit)のテストも行われる。

有人月面着陸はArtemis IV(2028年初頭) に移された。Starship HLSを使って月の南極付近に着陸する計画だ。南極には永久影と呼ばれる太陽光が一切届かないクレーターがあり、水の氷が存在することが確認されている。この水資源は将来の月面基地にとって極めて重要だ。

Gateway(月周回ステーション)

Gatewayは月周回軌道上に建設する小型宇宙ステーションの構想だ。当初はArtemis IVで建設開始の予定だったが、NASAの計画見直しにより早期ミッションからは外されている。ただし、ハードウェアの開発は継続中だ。

  • PPE(電力・推進モジュール): Maxar Technologiesが開発中
  • HALO(居住・物流モジュール): Northrop Grummanが開発中
  • I-Hab(国際居住モジュール): ESAとJAXAが共同開発。JAXAは生命維持システムを担当
  • Canadarm3: CSAが開発するロボットアーム

各国の宇宙機関が共同で運用し、月面への中継基地、さらには将来の火星ミッションの技術実証の場として機能する構想だ。予算制約や技術的課題により計画の規模や時期は流動的だが、国際パートナーの関与は維持されている。


Artemis IIクルーの詳細プロフィール

リード・ワイズマン(Commander)

メリーランド州ボルチモア出身。レンセラー工科大学で工学の学士号、ジョンズ・ホプキンス大学で工学の修士号を取得。米海軍の戦闘機パイロットとして中東に2度派遣された。2014年にISS第41次長期滞在でフライトエンジニアを務め、Artemis IIが2度目の宇宙飛行となる。NASAの宇宙飛行士室長を歴任。

ビクター・グローバー(Pilot)

カリフォルニア州ポモナ出身。カリフォルニア州立工科大学で工学の学士号、さらに3つの工学修士号を持つ。米海軍の戦闘機パイロットとして3,000時間以上の飛行経験があり、400回以上の空母着艦と24の戦闘任務を経験。2020〜2021年のSpaceX Crew-1ミッションでパイロットを務め、168日間の宇宙滞在と4回の船外活動を行った。地球低軌道を超えて月周辺に到達する初の有色人種の宇宙飛行士となる。

クリスティーナ・コック(Mission Specialist)

ノースカロライナ州立大学で電気工学・物理学の学士号と電気工学の修士号を取得。2019〜2020年にISS第59/60/61次長期滞在に参加し、女性単独での最長宇宙滞在記録328日を樹立。初の女性のみの船外活動にも参加した。地球低軌道を超えて月周辺に到達する初の女性となる。

ジェレミー・ハンセン(Mission Specialist・CSA)

カナダ軍の戦闘機パイロット・大佐。2009年にカナダ宇宙庁(CSA)の第3回宇宙飛行士選抜で選ばれた。NASAミッションコントロールセンターでCAPCOM(宇宙との通信担当)を務め、2017年にはカナダ人として初めてNASA宇宙飛行士クラスの指揮を任された。Artemis IIが初の宇宙飛行であり、地球低軌道を超えて月周辺に到達する初の米国人以外の宇宙飛行士となる。


日本のアルテミス計画への関与

日本はアルテミス計画において、米国に次ぐ重要なパートナーの一つだ。複数の分野で中核的な貢献を果たしている。

与圧ローバー「ルナクルーザー」

JAXAとトヨタが共同開発中の月面探査車だ。2019年に開発がスタートし、Artemis VIIミッション(2032年頃予定)での投入を計画している。燃料電池で駆動し、宇宙飛行士が宇宙服なしで乗車可能な与圧キャビンを備える。月面で約10年間の運用を想定しており、広範囲の月面探査を可能にする。

Gateway居住モジュール(I-Hab)

JAXAはESAと共同でGatewayの国際居住モジュール(I-Hab)の開発に参加しており、特に環境制御・生命維持システム(ECLSS) を担当している。宇宙飛行士がGatewayに長期滞在するために不可欠な技術だ。

日本人宇宙飛行士の月面着陸

2024年4月、日米首脳会談でNASAが日本人宇宙飛行士2名分の月面着陸の機会を提供することが合意された。実現すれば、米国人以外で初めて月面に立つ宇宙飛行士が日本人となる可能性がある。

SLIMの成果

JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」は2024年1月に月面着陸に成功し、日本は世界で5番目の月面着陸達成国となった。ピンポイント着陸技術の実証はアルテミス計画の月面探査にも活かされる。


SLSロケット — 史上最強の打ち上げ機

SLS(Space Launch System)は、アルテミス計画の基幹ロケットだ。NASAが開発した史上最大・最強の打ち上げ機であり、Orion宇宙船を月軌道まで送り届ける役割を担う。

SLSの主なスペック

項目Block 1Block 2(将来型)
全高98m111m
推力3,992トン4,173トン
低軌道投入能力95トン130トン
月軌道投入能力27トン46トン

SLSのコアステージには、スペースシャトルで使用されたRS-25エンジンを4基搭載している。両側にはスペースシャトルの固体ロケットブースターを改良した5セグメント型SRBを装備する。

SLSの課題

SLSは性能面では優れているが、コストが大きな課題だ。1回の打ち上げ費用は約41億ドル(約6,000億円)と推定されており、SpaceXのFalcon 9(約6,700万ドル)と比較すると桁違いに高い。また、再使用ができない使い捨てロケットであるため、打ち上げ頻度にも限界がある。


Orion宇宙船 — 深宇宙用の有人カプセル

Orion(オリオン)は、アルテミス計画で宇宙飛行士を運ぶ有人宇宙船だ。地球低軌道を越えて月や将来的には火星まで到達できるよう設計されている。

Orionの主なスペック

  • 乗員定数: 最大4名
  • 居住空間: 約9立方メートル
  • ミッション期間: 最大21日間(単独)
  • 耐熱シールド: AVCOAT(直径5m、世界最大級)
  • サービスモジュール: ESA(欧州宇宙機関)が提供

サービスモジュールをESAが担当していることも、アルテミス計画の国際協力を示す重要な要素だ。日本のJAXAも月面探査車(ルナクルーザー)の開発でプログラムに参加している。


月面基地構想 — Artemis Base Camp

NASAは月面にArtemis Base Campと呼ばれる恒久的な拠点を築く構想を持っている。Artemis III以降のミッションで段階的に建設される計画だ。

Base Campの主な構成要素は以下のとおり。

  • 月面居住モジュール: 宇宙飛行士が長期間滞在できる居住施設
  • 与圧ローバー(ルナクルーザー): JAXAとトヨタが共同開発中の月面探査車
  • 電力システム: 太陽光パネルと原子力発電(Kilopower)
  • ISRU(その場資源利用)施設: 月面の水の氷から水や酸素、燃料を生成

月の南極付近に建設される予定で、永久影のクレーターに存在する水の氷を資源として活用する。1トンの月の水を地球から運ぶと数十億円かかるため、現地で水を調達できるかどうかは計画全体の成否を左右する。


アルテミス計画の国際パートナー

アルテミス計画はNASA単独のプロジェクトではない。**アルテミス合意(Artemis Accords)**と呼ばれる国際協定に基づき、多くの国が参加している。

2026年3月時点で、アルテミス合意に署名した国は47か国に上る。主な参加国と役割は以下のとおり。

国・機関主な貢献
アメリカ(NASA)SLS、Orion、全体統括
欧州(ESA)Orionサービスモジュール
日本(JAXA)与圧ローバー(ルナクルーザー)、Gateway居住棟
カナダ(CSA)Canadarm3(ロボットアーム)
イタリア(ASI)Gateway居住モジュール
オーストラリア(ASA)月面ローバー

日本はアルテミス合意に最初に署名した国の一つであり、宇宙飛行士の月面着陸の機会が期待されている。


アポロ計画との比較

アルテミス計画とアポロ計画は、どちらも人類の月探査を目的としているが、その性格は大きく異なる。

項目アポロ計画アルテミス計画
時代1961〜1972年2017年〜
目的冷戦下の国威発揚持続的な月面活動・火星準備
ミッション数17回段階的に拡大
参加国アメリカ単独47か国以上
着陸地点赤道付近南極付近
ロケットSaturn VSLS
民間参加限定的SpaceX等が中核的役割

最も大きな違いは民間企業の役割だ。アポロ計画では政府機関が全てを主導したが、アルテミス計画ではSpaceXが月面着陸船を、Blue Originが将来のミッションの着陸船を開発するなど、民間企業が中核的な役割を果たしている。


アルテミス計画の課題と展望

予算の制約

アルテミス計画の最大の課題は予算だ。SLSの1回の打ち上げに約41億ドルかかるため、年間の打ち上げ回数に限界がある。NASAの年間予算は約250億ドルだが、アルテミス計画だけで相当な割合を占める。

スケジュールの遅延

当初の計画から大幅に遅れている。Artemis IIIは2025年予定だったが2027年以降に延期され、Gatewayの計画も見直しが入っている。

技術的課題

Artemis Iで発見された耐熱シールドの問題、Starship HLSの開発進捗、月面での宇宙服(xEMU)の開発など、解決すべき技術的課題は多い。

それでも前進し続ける理由

課題は多いが、アルテミス計画は着実に前進している。Artemis Iの成功により、SLSとOrionの基本性能は実証された。47か国が参加する国際協力の枠組みも整っている。

月面の水資源を活用できれば、宇宙での活動コストを劇的に下げられる可能性がある。月は火星への中継基地としても重要だ。アルテミス計画は、人類の宇宙進出の次のステップとして、着実に歴史を刻んでいる。


よくある質問(FAQ)

Q. アルテミスIIはいつ打ち上げられる?

2026年4月1日(米国東部時間17時24分、日本時間4月2日午前6時24分)が現在の目標日だ。ケネディ宇宙センターの39B発射台からSLSロケットで打ち上げられる。当初は3月打ち上げの予定だったが、ヘリウム流路の問題修理のため4月に延期された。

Q. アルテミスIIの打ち上げを見る方法は?

NASA+(無料・登録不要・広告なし)で打ち上げの約6時間前からライブ配信される。NASAの公式YouTubeチャンネル、X(旧Twitter)アカウントでも視聴可能だ。米国ではABC、NBC、CBSの地上波やCNN、Fox Newsでも中継される。日本では各種宇宙系メディアやYouTubeの配信を通じてリアルタイムで視聴できる。

Q. アルテミスIIの乗組員に日本人はいる?

Artemis IIには日本人宇宙飛行士は搭乗しない。クルーはNASA3名とカナダ宇宙庁1名の計4名だ。ただし、日米間の合意により将来のアルテミスミッションで日本人2名が月面に立つ機会が確保されている。

Q. アルテミスIIで月面に着陸する?

Artemis IIは月面に着陸しない。月の裏側を約10,300kmの距離でフライバイ(通過)し、地球に帰還する10日間のミッションだ。有人月面着陸はArtemis IV(2028年頃)で予定されている。

Q. アポロ計画と何が違う?

最大の違いは3つある。第一に、アルテミスは「行って帰る」だけでなく月面に持続的な拠点を築くことを目指している。第二に、47か国以上が参加する国際協力プロジェクトである(アポロは米国単独)。第三に、SpaceXやBlue Originなど民間企業が月面着陸船を開発するなど、官民協力が中核にある。


まとめ

アルテミス計画の要点を整理する。

  • 目的: 月面に持続的な拠点を築き、火星探査への足がかりとする
  • Artemis I(完了): SLSとOrionの無人テスト飛行に成功
  • Artemis II(2026年4月): 4名のクルーによる有人月周回飛行。SLSは3月20日に発射台到着済み
  • Artemis III(2027年中頃): 地球低軌道での着陸船ドッキングテストに変更
  • Artemis IV(2028年初頭): SpaceX Starship HLSを使った有人月面着陸
  • 日本の貢献: ルナクルーザー、Gateway生命維持システム、日本人宇宙飛行士2名の月面着陸機会
  • 国際協力: 47か国が参加
  • 最大の違い: アポロは「行って帰る」、アルテミスは「住み続ける」

宇宙ビジネス全体の動向については宇宙ビジネス完全ガイドも参考にしてほしい。


あわせて読みたい

参考としたサイト

アルテミス計画をわかりやすく解説 — Artemis I〜IVの全体像・SLS・Orion・月面基地計画まで

法人リサーチプラン — 1ヶ月無料トライアル

まとめレポートのダウンロード・法人マイページが1ヶ月無料で使えます。

無料トライアルを申し込む 戦略レポートの詳細

会員限定の記事を無料で読む

衛星データ・防衛・海洋・投資など、業界分析の深掘り記事が会員登録(無料)で全文読めます。

登録無料・メールアドレスのみ|登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします

tt